ジャズの弾き金 -石井妥師・レミギユス・ランチュスへのインタビュー

10月23日の夕べ、リトアニア・ジャズの名手たちと、アニメ”HELLSING”の音楽で知られる日本の石井妥師が、ヴィリニュスに集った。ジャズバー”カブリース”にて、言語も文化も超越するユニークな音楽が披露された。コラボ演奏は、Japan-Baltic Design Week “MADE IN JAPAN”の目玉企画の1つ。演奏後の熱気と興奮冷めやらぬ間に、”BalticAsia”は、サックス奏者のラミギユス・ランチュスさん、ボーカル・キーボードの石井妥師さんにインタビューを行った。当日のパフォーマンス、音楽製作のプロセスなどについて迫る。

フェスティバルについて

Japan-Baltic Design Week “MADE IN JAPAN”は、以前”BalticAsia”でも紹介した“NowJapan” の主催者により組織されている。イベントの目標は、「若者に愛されるコスプレやアニメといったポップカルチャーの枠に収まらない、より多様な観客を惹きつける」ことだ。日本の伝統芸術や現代芸術を好む人々へ、日本のプロミュージシャンやデザイナーに出会える機会を提供した。企画統括のシモーナ・シルヴィダイテ・シュリュピエネは、”MADE IN JAPAN”の企画が誕生した背景を次のように語った。
“企画立案者は、セルゲイ・グリゴレフという男性です。彼が日本のデザイナーの家を訪ねた際、目の当たりにして驚いたのは、棚に飾られている木のバスケット。バルト三国の伝統的なものとよく似たデザインです。これらは、ジャガイモの保存用などに主に田舎でしか使われていません。一方の日本人は、木で編まれたバスケットを、ハンドメイドの良い製品だと高く評価している。彼はとても驚きました。”一体何が、デザインの価値を決めるのだろう”。この問いから、日本とバルト三国のデザインを巡る旅が始まりました。

Japan-Baltic Design Week “MADE IN JAPAN”期間中、7つのコンサートが、首都のヴィリニュスを中心に、シャウレイ・パランガといった地方都市でも開かれた。その他には、2日間の会議、デザインフェアーなど。交流イベントには、各界の著名人、日本とリトアニアの音楽家やデザイナー、リトアニア文科省、在リトアニア日本大使館、会議の登壇者、市の職員が集い、意義深いものになった。”日本各地からアーティストを呼びました。エストニア・ラトビア・リトアニアのバルト三国と、なんとフィンランドからもアーティストを呼ぶことができました。とてもユニークなイベントになったと自負しています”とシモーナは述べた。


Džiazo baro "Kablys" scena. Nuotr. Artūras Samalius

ジャズバー”カブリース”のステージ。写真 Artūras Samalius

今回の演奏に参加する以前に、お互いについて何か知っていましたか?また、”MADE IN JAPAN”に参加する決め手になったのは何でしょう?

ランチュス: この企画に参加するまで、妥師さんのことについて何も知りませんでした。彼がいくつかの日本の有名なアニメの楽曲を作っていることを知ったのは、やり取りを始めてからです。白紙状態でした。これから誰と何をやるのか、全く知らなかったのです。インターネットで調べようとしたのですが、すべての検索結果は日本語だったので…。一度顔を合わせてみると、たちまちミュージシャン同士で繋がれた気がしました。(これが恐らく日本人の特徴なのかもしれないが、)彼はかなり控えめな人でした。でも私は彼の音楽がとても気に入りました。彼の声はとても透き通っています。すこしハスキーだが、かなり遠くまで届く特徴を持っていました。
私に来たオファーは、誰かと一緒に演奏をしてフェスティバルに参加してほしいというものでした。過去にはアフリカの人とブラジルの人と同じようなコラボをしたことがあるように、この手の企画には常に興味を持っています。異なる文化から来る新たなアイディアに夢中になれるので、毎回とてもエキサイティングな経験ができます。今回は、日本の文化や考え方を感じられる、とても良い機会だったように思います。共に音楽を創り、演奏し、旅をし、対話し、リハーサルをし、食事をしました。

石井: 他の方とは全く面識がなかったけれども、”NowJapan”、そして”MADE IN JAPAN”の方針には大きな共感を覚えたので、参加しようと思いました。僕も日本的なものは好きなので。これが参加の決め手ですね。

どうやって音楽を一緒に作ったのですか?また、今回の演奏を通じて、自分の演奏の中に異文化の影響を感じましたか?それとも普遍的な音楽を感じましたか?

ランチュス: ミュージシャンがどこの国籍でどんな文化的背景を持っているかは、重要ではないです。今回の演奏では各々が、何か新しく未知な物を持ち寄りました。私たちは、多様なジャンルの音楽を提供することができました。 世界の 音楽から、ジャズ要素のあるポップな 音楽までです。私にとって、妥師さんの音楽は、これこそまさに日本の音楽!というとても良い例でした。ポップやロックの音との類似点はあれども、一度彼の声を耳にすると、日本に連れていかれたような気になる音楽だったんです!聴けばまず第一に「リトアニアらしさ」を感じさせてくれる、伝統的なリトアニアの合唱スタルティネ(Sutartinė ) とよく似ています。だから、彼の歌声の1つ1つこそが本当の日本語なんだと実感しながら聴きました。
私たちが自分の演奏をしている時、彼は素早く柔軟に私たちの音楽に合わせてくれます。ジャズ的な即興の感覚を、観客の皆さんに味わってもらえたのではないでしょうか。

石井: 今日も当日になってコード譜を渡されて、即興的な演奏をやらなければならなくなり……。ジャズというのはこういうものかなと実感しました。

Koncerte nuskambėjo ir "Hellsing" pagrindinė tema. Nuotr. Artūras Samalius

ステージで演奏される”HELLSING”のメインテーマ。 写真Artūras Samalius

今夜ステージで演奏した感想を教えてください。驚きや、思いがけない即興演奏などはありましたか?

ランチュス: とても良い感じでした。初めての演奏の際はトラブルもありましたが、今日の演奏では皆が何に気をつければいいか熟知していました。あともう5回ほど演奏の機会があればなあ……と思うばかりです。不幸にも全2回の演奏しかなく、もうサヨナラを言わなくてはならない時間です。言うまでもなく、とても良い経験になりました。

石井: オープニングではトラブルがありました。「祇園精舎の鐘の声」という曲をピアノで演奏をした際に、なんとペダルがずれてきて……。気になって間違えてしまったし、変な体勢で演奏してたと思います。(笑いながら、当時の状況を椅子の上で再現する)。思いがけない即興演奏でした。

今回の演奏の広告ポスターで取り上げられていたのは、ランチュスさんでも石井さんでもなく、”HELLSING”の主人公の吸血鬼アーカードでした。これについてどう思わてましたか?このアニメについて何か知っていたり、見ていたりはしますか?

ランチュス: アニメについては、あまり詳しくないです。私が馴染みがあるのは、宮崎駿や手塚治虫の作品ばかりです。以前アフリカの人と音楽を一緒に作った際、”Hayo”という宮崎駿さんに捧げる曲を作ったことがあります。”HELLSING”については何も知りませんでした。でも今は試しに見てみようと思っています。

宮崎駿さんの作品を楽しんだ後では、”HELLSING”は大分毛並みの違う作品になりますね……

ランチュス: ええ。既にアニメのシンボルを見て、やや違いのある作品だと察しています(笑)

“MADE IN JAPAN”という企画をどのように評価しますか?

ランチュス: 参加する前は、このイベントについてあまり聞いたことはなく、先入観もありませんでした。参加した今、”MADE IN JAPAN”に対する私の印象はとても良いです。共に演奏をするチームを作るところから始まり、コンサート自体の経験と日本のアーティストと知り合う貴重な機会を胸に成功裏に終えることができました。関わった全てのスタッフが大好きです。主催者のおかげで、良い雰囲気を楽しむことができました。私に参加の機会を与えてくれたことに感謝です。

今回、日本とバルト三国という距離のせいで、不慣れな方法でリハーサルを含むコンサートの準備をしたと聞いています。準備は上手くいきましたか?それとも、トラブルに陥りましたか?

Remigijus Rančys

“白紙状態でした。これから誰と何をやるのか、全く知らなかったのです” 写真 Artūras Samalius

ランチュス: 音楽は、真に普遍的な言語です。誰かと演奏を始めると、直ぐにすべてが上手く行くのを感じます。石井さんはプロなので、かなり早い段階で私たちのところまでたどり着きました。例えば、私の音楽を通しで数回演奏しただけで、コンサートの間すべてが上手く行ったのです。まずは、何をどのようにすればよいか、どう録音をするかといった戦略を、サックスの私とドラムのアルカディユス・ゴテスマスとバスのミコラス・バザーラスで話し合いました。その後、それを石井さんに伝えて、彼が了承しました。一度対面で会えば、音楽はまもなく1つの物になりました。

石井:元々の自分の曲を、ピアノ・ドラム・ベース・ボーカル・サックスという風に複数人編成用にアレンジをしました。デモテープや譜面をインターネットで送るというやり取りをしました。日本語でコミュニケーションが取れる普段と異なり、英語で音楽的な複雑なことを伝えなければならかったのには苦労しました。

コンサートで演奏された中のある楽曲は、情緒あふれる官能的な曲で、ドストエフスキーに捧げるものであったと聞きました。この曲はあなたにとってどのような重要な意味を持つものでしょうか?

ランチュス: 人々は、常に創作と実演の過程にあります。この曲は、私の日々の現実にメロディーとタイトルを付けた物になります。3、8、12と記号のようにメロディーを書くことはできません。メロディーを作る際に何をしているのかと言えば、私の人生で起きたことを思い出そうとしてるのです。
この曲の背景には、ちょっとした訳があります。私がデンマークに住み、勉強していた時のことです。体調が優れず、ベッドに2週間横たわっていなければなくなった時がありました。とても退屈でしたが、私の隣にあったのがドストエフスキーの『白痴』です。十分な時間のおかげで話の内容を理解するのことができ、ドストエフスキーチックな人生観は多大な影響を私に与えてくれました。体調が良くなってからは、ドストエフスキーのことを考えながらピアノの前に座り、演奏するようになったのです。こうしてあの作品が生まれました。私は、異なる人々と長きに渡って、この曲の演奏を続けているのです。

近い将来のプランは何でしょうか?実りあるコラボを再び行う計画は立てましたか?

ランチュス: 是非、石井妥師さんと演奏を続けたいですね。今回の時間は短すぎました。分かれてやる必要があり、ほとんど一緒に演奏することができなかったので。
また、フェスティバルで出会った他のアーティスト “Aco & Taca”の演奏もとても気に入りました。来年もこの企画が続くなら、弦楽器のためのアレンジを作って彼らと演奏ができたらと主催者に話しました。”飼いならされていない”女性アーティストの声にはとても感服です。

石井: 今までの人生のなかで、あまりコンサートを経験してきませんでした。これからはライブパフォーマンスもより積極的にしていければと思います。ぜひ来年もリトアニアに呼んで頂ければ、必ず戻ってきます。


多くのアニメファンにとって、石井妥師さんとその作品は、もっぱら”HELLSING”の世界観と関連付けられている。有名な作品とは裏腹に、彼自身についての情報は少なく、作品も謎を多く残す。”BalticAsia”は、彼の創作活動に影響を与えているのは何なのか等を聞く機会を得た。


Yasushi Ishii

“宗教は、自分の人生を豊かにしてくれる薬のようなもの” 写真 Artūras Samalius

ヨーロッパで演奏をするのは初めてでしょうか?

今回は、初めてだらけの機会でした。ヨーロッパで演奏するのが初めてなだけでなく、自分のコンサートとして演奏するのも初めてです。

リトアニアという国についてどう思われましたか?
リトアニアの女性がとても陽気で楽しそうという印象を受けました。しかしながら、会場に来る途中にジャンキーな男の人に遭遇してしまいました。明るい面の裏には課題も抱えている国なのかもしれないと感じました。

アシッドジャズからハードロックまで、かなり幅広いジャンルの音楽を作っていらっしゃいます。どのようにして異なる音楽ジャンルをおさえるようになったのでしょう。

また、石井さんの作品からは、ドラマ性のある物から叙情性のある物まで、大きなコントラストやバラエティーを感じます。何が最もあなたの音楽に影響を与え、創造力を育んだのでしょうか?

今では多くの楽器を演奏するようになりました。個人的にはアシッドジャズも好きですが、作曲の仕事ではジャズやロックなど様々なジャンルの演奏を要求さられます。仕事として色んな音楽を聴くことで吸収していった感じですね。
また、自分は仏教に傾倒していて「禅」という思想に影響されています。これは、自分のこだわりを捨て払うという思想。その結果、次第に色んな音楽を吸収するようになりました。

宗教が創造力を開く1つの手段であるということでしょうか?

そうですね。仏教に何故か妙に惹かれるんです。生きる上での潤滑剤ですね。宗教は、自分の人生を豊かにしてくれる薬のようなもの。

“HELLSING”や”DARKER THAN BLACK”といったアニメのサウンドトラックも製作していますが、アニメへの個人的な興味はありますか?

小学校の頃から”巨人の星”や”ドラえもん”などのアニメを日常的に見ていたので、興味は当然あります。興味というか、自分の日常そのものですね。好きなアニメは、”HELLSING”と”DARKER THAN BLACK”。漫画家・平野耕太さんの絵のタッチがかっこよくて惹かれます。(なお”DARKER THAN BLACK”は、岡村天斎作)

“DARKER THAN BLACK”に用いられている”DARKER THAN BLACK”の中で、Ziggy Starへの言及があります。デヴィッド・ボウイはあなたの音楽に影響を与えましたか?

デヴィド・ボウイも好きなんですが、どうしても歌詞が浮かばなくて……。リズムが良い、空に関連する何かとして浮かんだのがZiggy Starで、流れで付けた感じです。

アニメに提供する楽曲作成のプロセスを詳しく教えてください。アニメのビジュアルは、楽曲作成のための想像・創造力を高めるのに役立ちますか?それとも逆にビジュアルは妨げになりますか?

製作にあたっては、「このシーンではこんな感じの音楽を作ってくれ」とディレクターの方と打ち合わせをして参考になる音源をもらいます。でも言われたものをそのまま作るのはつまらないので、その曲の中に自分のエッセンスが少しでも加わるように心がけています。
石井さんが”HELLSING”に提供した音楽は、同じく平野耕太原作の”ドリフターズ”にも使用されているようです。平野さんの作品に何か特別な思い入れがあるのでしょうか?音楽の観点から”ドリフターズ”と”HELLSING”に違いはありますか?

私と平野さんとは、見えない何かで引き寄せられているような因縁を感じています。”HELLSING”は、キリスト教をベースにした西欧的な世界観ですが、”ドリフターズ”は、日本を舞台とした作品です。なるべく日本の仏教的なテイストを入れればと考えて楽曲を作っています。

貴重なインタビューのお時間を頂き、ありがとうございました!今後のご活躍、コラボレーションにも期待しています。


英語訳 by Sida Nakrošytė.
日本語訳 by Yasufumi Nakashima(中嶋泰郁).
写真撮影 by Artūras Samalius.


Author: Sida Nakrošytė

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